診療支援
治療

1 急性呼吸促迫症候群
acute respiratory distress syndrome(ARDS)
田坂 定智
(弘前大学大学院教授・呼吸器内科学)

▼定義

 敗血症や肺炎,外傷などの種々の病態を誘因として発症し,肺の炎症とそれに伴う肺微小血管の透過性亢進を特徴とする非心原性肺水腫である.

▼病態

 ARDSの誘因となる基礎疾患は多岐にわたるが,敗血症重症肺炎の頻度が高く,それぞれARDS全体の25~40%を占める.こうした基礎疾患に伴う高サイトカイン血症などにより活性化した好中球が肺内に過剰に集積し,蛋白分解酵素や活性酸素などの組織傷害性物質を放出する.その結果,肺胞隔壁(血管内皮,肺胞上皮)の透過性が亢進し,非心原性肺水腫を生じる.発症早期のARDSにおける組織学的変化は,びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)とよばれ,間質と肺胞における蛋白含量の多い出血性の水腫が特徴的である(図2-44)

 ARDS患者にみられる生理学的変化としては,①シャント形成による低酸素血症,②肺コンプライアンスの低下(肺の硬化),③気道抵抗の上昇,④拡散障害,⑤換気血流比不均等分布,⑥肺血管抵抗の上昇などが挙げられる.

▼疫学

 ARDSの発症頻度については報告により大きな差がある.その要因としては調査方法の違いのほか,診断基準が単純なため除外診断をどこまで行うかで診断される患者数に違いがでること,各地域における集中治療室の病床数や運用が異なることなどが考えられる.

▼診断

 患者が進行性の呼吸困難を訴え,マスクなどによる酸素投与でも改善しない低酸素血症があり,胸部X線で両側性浸潤影を認める場合には本症を疑うべきである.診断基準を表2-36に示す.

症状

 ARDSの症状としては急性に発現する呼吸困難が典型的であるが,本症は敗血症や重症肺炎,外傷など多様な病態を誘因として発症するため,症状はその基礎病態によって左右される.また高齢者では呼吸困難の訴えが乏しく,意識障害や失見当識が前面に出ることがある.

検査成績

 

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