診療支援
治療

(1)腫瘍浸潤・圧排によるもの
副島 研造
(慶應義塾大学教授・臨床研究推進センター)

上大静脈症候群

 上大静脈の血流閉塞により生じる.最近はカテーテルなどの血管内器具による塞栓症の頻度が増加しているものの,主な原因は悪性腫瘍に伴うもので60~80%を占める.悪性腫瘍としては,肺癌が圧倒的に頻度が高く,非小細胞肺癌が50%,小細胞肺癌が25%,ついで悪性リンパ腫が10%程度と報告されている.病態としては,主に右肺もしくはリンパ節病変からの直接浸潤ないし壁外性の圧迫による上大静脈の血流閉塞によって生じるが,時に腫瘍あるいは血栓による塞栓症によっても生じうる.上大静脈が閉塞すると側副血行路が形成され,上大静脈閉塞により急激に上昇した上半身の静脈圧は徐々に減圧されるが,完全閉塞までの期間が短いと側副血行路の発達が不十分のため症状が強くなる.

 症状・身体所見としては,顔面浮腫が最も頻度が高く約80%に認められるとされ,その他上肢や頸部の浮腫,前胸部の静脈怒張,呼吸困難や咳嗽も約半数に認められる.脳浮腫をきたすと頭痛,さらに錯乱などの症状が出る.急速かつ高度な閉塞が起これば循環不全など致死的な状況になることもありうる.上大静脈症候群の重症度分類を表2-54に示す.

 治療については,上大静脈症候群はいわゆるoncologic emergencyとしての対応が必要な病態であり,グレード4の場合は緊急ステントの適応を考慮する必要がある.グレード1~3の場合は,病理学的診断を確定したうえで,肺癌の病期分類にそった化学放射線療法あるいは化学療法を早急に開始する.ただし非小細胞肺癌では,小細胞肺癌と比較し化学療法が早期に奏効しないこともあるため,グレード3の場合,Ⅳ期であっても姑息的な放射線療法を追加するか,ステント挿入を考慮する.一般的に上大静脈症候群に対する放射線療法の効果は高く,7~10日以内に症状の改善がみられることが多い.ステロイドや利尿薬の有効性は証明されていない.

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