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1 正常洞調律の電気生理学的および解剖学的基礎
normal sinus rhythm
古川 哲史
(東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体情報薬理学教授)

▼正常洞調律の解剖学的基礎

 心臓の最も重要な機能は,ポンプとして血液を全身に送りとどけることである.心臓がこのポンプ機能を効率的に果たすためには,心臓の各部位が正しいタイミングで興奮する必要がある.この役目を果たしているのが特殊刺激伝導系である.特殊刺激伝導系は心臓全体に分布しており,心臓の上部から,

●洞結節-結節間伝導路-房室結節-His(ヒス)束-脚(右脚,左脚)-Purkinje(プルキンエ)線維

の順番で配置する(図3-19).特殊刺激伝導系に対して,心室筋や心房筋はポンプ作用が主な機能であり,作業心筋あるいは固有心筋とよばれる.

 心筋細胞は,細胞外に比べて細胞内が電気的にマイナスに帯電しており,細胞内電位は-80~-90mVである.この電位を静止膜電位とよび,プラス極とマイナス極が分かれているという観点で分極(polarization)と表現する.心筋細胞内は一過性に電気的にプラスに帯電し,再び元の-80~-90mVの静止膜電位に戻る電気現象を繰り返している.この一過性の電気現象のことを活動電位(action potential)とよび,細胞内がプラスに帯電することを,分極状態から脱するという意味で脱分極(depolarization),-80~-90mVに戻ることを再び分極するという意味で再分極(repolarization)という.

 特殊刺激伝導系は,作業心筋と異なり自ら興奮する(活動電位を発生する)能力をもっている.これを自動能という.特殊刺激伝導系は位置する部位によって自動能の頻度に違いがあり,心臓の上部に位置するほど自動能の頻度が高い.すなわち自動能にはヒエラルキーがある.洞結節の自動能の頻度が最も高く,正常の心臓は洞結節の自動能により興奮する.下位の特殊刺激伝導系は,自動能の途中で洞結節からの興奮によって活動電位を発生させられてしまい,自動能が再び最初

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