診療支援
治療

1 心臓外傷
traumatic cardiac injury
種本 和雄
(川崎医科大学教授・心臓血管外科学)

疾患を疑うポイント

●心臓外傷は3種類に大別される.刃物や銃による穿通性,胸部打撲や圧迫による鈍的外傷,および医原性である.

学びのポイント

●“cardiac box”とよばれるエリアの穿通性外傷は,心臓外傷を起こしている可能性があることを理解する.

●現場での診断・処置は最小限にしてできるだけ早く心臓血管外科施設に搬送.その際,穿通している刃物などは抜去せずにそのまま搬送する.

●穿通性心臓外傷では心タンポナーデを生じることがほとんどであるが,古典的Beckの三徴はそろわないことが多く,出血性ショックでは頸静脈怒張はみられない.

●鈍的外傷では無症状のものから,心室細動,心筋梗塞を起こすものまで程度はさまざまである.また心内構造物の損傷を起こしている場合には心エコー図による診断が重要.

▼定義

 心臓の構造物が外的要因によって損傷される疾患である.体表面から連続する経路を通って損傷される穿通性外傷,打撲や圧迫などの衝撃によって損傷される鈍的外傷,およびカテーテル操作などによる医原性外傷に大別される.

▼病態・疫学

 心臓外傷の頻度と原因については地域差がきわめて大きい.特に銃の所持が許されている米国の事情は他国と異なり,すべての重篤外傷の10%が胸部の銃創,9.5%が胸部の刺創によるものといわれている.戦闘中の死亡は95%が穿通性胸部外傷による.また都市部よりも郊外のほうが穿通性の外傷が多いことが明らかになっている.穿通性胸部外傷の15~30%が手術を必要とした一方,鈍的外傷で手術を必要としたものは10%以下とされている.

 心臓の穿通性外傷では,心タンポナーデおよび出血性ショックを起こすのが一般的である.心囊膜は伸展性が低いことから,50mLも心囊内に出血すればすぐに心タンポナーデの状態となる.

 “cardiac box”とよばれる,上方は鎖骨および鎖骨切痕,左右は鎖骨中線,そして下方は肋

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