診療支援
治療

2 過敏性腸症候群
irritable bowel syndrome(IBS)
中島 淳
(横浜市立大学大学院主任教授・肝胆膵消化器病学教室)

疾患を疑うポイント

●特別な器質性疾患を認めないにもかかわらず慢性の腹部症状と便通異常を認める.

●慢性の下痢や便秘を主訴に医療機関を受診し,同時に腹部症状(腹痛)を訴えるが体重減少や血便,発熱などの器質性疾患を疑う所見に乏しい場合.

学びのポイント

●腹部症状があるのにその原因が内視鏡検査や血液・画像検査などでも認められない機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorders:FGIDs)の代表疾患の1つ.

●便通異常を主訴に医療機関を受診する患者の多くは内視鏡や放射線画像検査をしても異常がないことが多く,その多くは過敏性腸症候群.

●器質性疾患を疑う場合に重要なのが警告徴候.

●過敏性腸症候群には下痢型と便秘型が,さらには混合型と分類不能型がある.

●慢性の下痢や便秘を主訴とする疾患の鑑別で重要かつ患者数も非常に多い.

●ドクターショッピングとなる代表的疾患.

▼定義

 腹痛や下痢あるいは便秘を訴えるがその症状を説明する器質的異常を認めない機能性疾患.器質的異常とは内視鏡やCTなどの放射線検査,あるいは組織の病理学的検査などで異常を認めないことを指す.したがって診断はもっぱら症状のみで行い,その診断基準はRome Ⅳ診断基準(表4-10)によって国際的に定義されている.

▼病態

 発症には遺伝的素因(一卵性双生児が二卵性双生児に比べて発症頻度が高い),幼少期の環境(虐待など),社会心理的ストレス,などが関係するとされている.また急性胃腸炎に罹患した後のIBS発症は6~7倍になることが知られている(感染後過敏性腸症候群).

 過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアや逆流性食道炎などほかの機能性消化管疾患と合併したり,うつ病やパニック障害と合併することがあり,症状が複雑になっていることがあり注意を要する.

▼疫学

 わが国の有病率は10~15%と高く,特に女性,40

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