診療支援
治療

11 放射線性腸炎
radiation enterocolitis
江﨑 幹宏
(佐賀大学医学部附属病院・光学医療診療部診療教授)

疾患を疑うポイント

●比較的高齢者に多く,男性よりも女性に多い.

●放射線性直腸炎では血便,小腸炎では便秘や腹部膨満感をきたすことが多い.

学びのポイント

●腹部放射線照射歴を有する患者において消化器症状を有する場合,常に念頭においておくべき疾患.

●晩期障害例における腸管障害は非可逆的であり,特に小腸炎により高度腸管狭窄や穿孔を伴う症例では,広範囲の腸管切除を要し予後不良な場合が多い.

●長期経過例では癌を合併するリスクを有する.

▼定義

 子宮癌や前立腺癌などの骨盤内悪性腫瘍に対する放射線治療の合併症として発症する腸管の難治性炎症性病変である.腸管障害は放射線照射野に一致して出現するが,腸管障害の機序の違いにより早期障害と晩期障害に分類される.

▼病態・分類

 早期障害は照射開始1~2週後から3か月以内に出現し,照射中止から数週間後には消失する.一方,晩期障害は照射終了後数か月(平均6か月)から数年後に出現し慢性に経過する.

 早期障害は消化管粘膜に対する放射線の直接障害に起因する.病理組織学的には,粘膜上皮細胞分裂の減少,粘膜の萎縮,ならびに粘膜固有層への炎症細胞浸潤を生じるが,可逆的である.一方,晩期障害は腸管壁の微小循環障害を主因とする間接的な障害であり,非可逆的な変化と考えられている.すなわち,動脈内膜炎により内膜線維化や血栓形成を生じ,これによる虚血性変化として腸管壁の線維化,腸管狭窄,潰瘍あるいは瘻孔形成などを生じる.

▼診断

 本症は腹部の放射線照射歴の存在が前提となるため問診が重要となる.本人の記憶が曖昧な場合もあるため,婦人科領域あるいは泌尿器科領域の治療歴に関する当該診療部門への照会が必要となる場合もある.また,理学所見で下腹部の手術痕や皮膚の色調変化,硬化所見なども照射歴を示唆する参考所見となりうる.

臨床症状

 早期障害では,腹痛,下痢,下血,嘔気・嘔吐,下腹部不快感などを

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?