診療支援
治療

11 肝膿瘍
liver abscess
中尾 一彦
(長崎大学大学院教授・消化器内科)

学びのポイント

●肝膿瘍は細菌性とアメーバ性に大別される.敗血症性ショックやDICを合併し致命的となることがあり,迅速な診断と治療が必要である.

●細菌性肝膿瘍の起因菌としては,肺炎桿菌や大腸菌などのグラム陰性桿菌が多いが,嫌気性菌との混合感染もあり,広域スペクトラムの抗菌薬と経皮的ドレナージによる治療を行う.

●アメーバ性肝膿瘍の診断に際し,近年,赤痢アメーバの感染経路が多様化しており詳細な病歴の聴取が診断の一助となる.メトロニダゾール内服ですみやかに回復する.

▼定義

 肝膿瘍とは,肝臓外から細菌,原虫などが肝組織内に侵入,増殖した結果,肝組織が融解壊死を起こして形成された膿瘍と定義される.

▼病態

 細菌性肝膿瘍の起因菌はグラム陰性桿菌によるものが多数を占める.近年,大腸菌が減少し,肺炎桿菌が増加している.またバクテロイデスなどの嫌気性菌や腸球菌などのグラム陽性菌も増加傾向を示している.

 細菌の感染経路として,①経胆道性(胆管炎の波及),②経門脈性(虫垂炎,腸疾患,腹膜炎など),③経動脈性(心膜炎,菌血症など),④直接波及(急性胆囊炎,腎周囲膿瘍など),⑤医原性,外傷性などがある.①の経胆道性が全体の約半数を占め,胆管結石や癌による胆汁うっ滞に起因する胆管炎が肝内に波及して膿瘍形成に至る.⑤としては,肝癌に対する経皮的ラジオ波焼灼術や経カテーテル的肝動脈塞栓術による胆管障害が契機となり膿瘍が形成される.

 アメーバ性肝膿瘍は,赤痢アメーバ囊子に汚染された食物・飲料水の摂取,ならびに赤痢アメーバキャリアとの性行為(anal-oral sexual contact)により,感染した囊子が小腸下部で栄養型虫体となり大腸粘膜内へと侵入し,血行性に肝に到達することで形成される.海外浸淫地からの輸入症例もみられるが,約8割は国内での新規感染と考えられている.

▼疫学

 細菌性肝膿瘍は年間10万人あ

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