診療支援
治療

3 ウィルソン病
Wilson disease
原田 大
(産業医科大学教授・第3内科学)

疾患を疑うポイント

●通常の検査で診断不能な肝障害では本症を疑う.

学びのポイント

●薬物による治療可能な遺伝性代謝異常症である.

●治療の中断(怠薬)は致命的である.

●いかなる年齢の発症もありうる.

▼定義

 常染色体劣性遺伝で遺伝する銅過剰症である〔第6章のも参照〕.

▼病態

 本疾患の責任遺伝子はATP7Bであり,この変異により肝細胞に存在する銅輸送体のATP7Bの機能に異常をきたし毛細胆管への銅排泄障害が起こる.銅は生体に必須の元素であるが,過剰の銅は活性酸素を生じ,肝障害や神経障害などさまざまな臓器の障害をきたす.肝細胞がつくる銅結合蛋白であるセルロプラスミンへの銅の結合も障害される.

▼疫学

 患者は約3万人に1人の頻度で存在する.異常遺伝子保有者(ヘテロ接合体)は約80人に1人存在する.患者ではATP7Bに500種類以上の変異が報告されている.

▼分類

 肝型,神経型に分類されることが多いが,症状は多彩でいかなる臓器障害も起こりうる.神経型でも肝に異常は存在する.肝障害は慢性の経過が多いが急性肝不全で発症することもある.

▼診断

 本症の発症年齢や症状は多岐に及ぶ.黄疸,偶然発見される肝機能異常,構音障害,振戦,性格変化,腎障害,心不全などの症状を呈する.角膜への銅の沈着はKayser-Fleischer(カイザー-フライシャー)角膜輪とよばれる.溶血を伴う肝不全での発症もある.症状の多様性は多種の遺伝子変異のためと考えられる.診断は症状,血清セルロプラスミン濃度,尿中銅排泄量,肝銅含量,角膜輪の証明や遺伝子解析など総合的に行う.診断基準を表5-20に示す.

 肝生検では脂肪肝,慢性肝炎や肝硬変などの組織像を呈しうる.そのため肝の銅含量の測定が重要である.

▼治療

 低銅食とし,レバー,甲殻類,ナッツ,キノコ類やチョコレートは避ける.

 治療は銅のキレートと吸収抑制である.銅キレート剤として

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