ビタミンB1は骨格筋,心筋,肝臓,腎臓,脳に多く,約50%は筋肉に存在する.生物学的半減期は9~18日と短く,持続的な補給が必要である.チアミンは小腸上部で吸収された後,リン酸化されてコエンザイムA(CoA),リポ酸,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)などとともに酸化的脱炭酸反応の補酵素として作用する.チアミン酵素にはピルビン酸脱水素酵素,α-ケトグルタル酸脱水素酵素,トランスケトラーゼの糖・エネルギー代謝酵素およびα-ケトイソカプロン酸,α-ケト-メチル吉草酸,α-ケトイソ吉草酸をそれぞれイソバレリルCoA,α-メチルブチリルCoA,イソブチリルCoAに変換する分岐鎖ケト酸脱水素酵素がある.このように,ビタミンB1はエネルギー産生および神経活動電位の発生や神経伝導に関与する.
ビタミンB1欠乏の原因として食事や成長のほか,ストレス,静脈栄養などがある.特に大量の糖質は消費を亢進させる.ビタミンB1欠乏が長期になると多発性神経炎や徐脈,不安,うつ状態など精神知能の変化がみられる.さらに進行し,筋力の減弱,知覚異常,麻痺などを呈すると脚気である.湿性脚気は浮腫を特徴とし,蛋白摂取不足によると思われる.メープルシロップ尿症,ピルビン酸脱水素酵素欠損症,ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症,巨赤芽球性貧血などのビタミンB1反応性遺伝性疾患が知られている.
ビタミンB1非添加高カロリー輸液により,乳酸アシドーシス,Wernicke(ウェルニッケ)脳症,脚気心といわれる心不全を呈する.Wernicke脳症では眼症状として,外転障害,注視眼振など眼球運動障害が早期に起こりやすい.意識障害は昏睡となることは少ないが,傾眠,錯乱がみられる.アルカリ剤は無効で,チアミンの投与で劇的に改善される.
ビタミンB1の必要
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