診療支援
治療

4 下垂体機能低下症
hypopituitarism
沖 隆
(浜松医科大学特任教授・地域家庭医療学)

▼定義

 単独あるいは複数の下垂体前葉ホルモン(ACTH,TSH,GH,LH,FSH,PRL)の分泌が低下し,続いてその標的ホルモンであるコルチゾール,FT3・FT4,IGF-Ⅰ,プロゲステロン,テストステロン,エストラジオールの低下をきたし,それぞれのホルモン欠損症状を呈する疾患である.

▼病態

 下垂体あるいは下垂体近傍の腫瘍性病変・肉芽腫性病変・炎症性病変・血管障害,感染症・自己免疫による転写因子の機能抑制などを介して,下垂体前葉ホルモンの分泌低下をきたし,その欠落症状を呈する.まれに,転写因子の遺伝子異常のため先天的に転写因子に応じた下垂体ホルモンの発現が得られないものもある.下垂体機能低下症の原因疾患を表7-11に記す.

▼疫学

 1992年に行われた間脳下垂体機能障害調査研究班の調査では,5年間で下垂体前葉機能低下症848例(男女比1:1.3)と報告されている.年齢分布としては男女とも60歳前後が最も頻度が高い.

 2001年の報告では,原因として下垂体腺腫が最も多い.妊娠・分娩に関するものとして,分娩時の大量出血に起因して数か月~数年後に下垂体機能低下症になるSheehan症候群の報告が多かったが,分娩管理の進歩とともに減少している.一方,産褥期関連としてリンパ球性下垂体炎の報告が増加している.その他の頻度を表7-12に示す.

 下垂体前葉と後葉を同時に傷害する炎症としてIgG4関連下垂体炎が報告されている.近年では,免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害薬,CTLA-4阻害薬)による下垂体炎の報告が,その使用頻度の増加とともに増えている.しかし,正確な頻度は不明である.ごくまれに,下垂体前葉細胞の分化に重要な転写因子に対する自己抗体が発現し,後天的にホルモン分泌障害をきたすものも報告されている.下垂体茎から下垂体後葉にかけて自己免疫機序による炎症を起こすものはリンパ

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