診療支援
治療

【9】遺伝性球状赤血球症
hereditary spherocytosis(HS)
和田 秀穂
(川崎医科大学教授・血液内科学)

疾患を疑うポイント

●網赤血球増加,血清ハプトグロビン低値,間接ビリルビン高値などの溶血所見がみられたら,末梢血塗抹標本で赤血球形態観察を行い,球状赤血球,有口赤血球が目立った場合は本症を疑う.

●典型例では常染色体優性遺伝形式をとるが,家系内発症の認められない孤発例が少なくとも1/3に及ぶので,遺伝歴がないだけで否定しない.

学びのポイント

●先天性溶血性貧血のなかで,最も頻度が高い疾患である.高齢になって初めて診断される例もまれではない.

●一般に赤血球の形態が通常の許容範囲を超えて変形している状態を奇形赤血球症といい,形態に基づき奇形赤血球として十数種類が定義されている.先天性溶血性貧血ではしばしばその疾患固有の赤血球形態異常を有しており,診断の有力な手がかりとなるため,塗抹標本にて赤血球の形態を注意深く観察することを怠らない.

●経過中,貧血が急速に進行することがある.感染症や薬物による溶血発作hemolytic crisisやパルボウイルスB19感染後の無形成発作aplastic crisisが考えられる.

▼定義

‍ 赤血球膜蛋白の先天性欠陥により赤血球が小型球状化するとともに「病的赤血球の脾臓による条件づけ・捕捉」によって脾臓内で壊され,血管外溶血に至る疾患である.

▼病態

 赤血球膜自体の先天的欠陥と病的赤血球の脾臓による条件づけ(splenic conditioning)という2つの病態が存在する.赤血球膜異常としては,赤血球膜骨格と膜脂質とを連結する役割を成している蛋白群,すなわちスペクトリン(α-spectrin,β-spectrin),バンド3(band 3),アンキリン(ankyrin),および4.2蛋白(protein 4.2)に分子異常が確認されている(図8-16).これらの膜蛋白遺伝子変異に起因した蛋白の量的異常をきたした赤血球膜では膜骨格と膜脂質とのつながり

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