診療支援
治療

【1】アンチトロンビン欠乏症
antithrombin deficiency
大森 司
(自治医科大学教授・病態生化学)

疾患を疑うポイント

●家族歴,若年,非典型部位,再発性,ヘパリン抵抗性の血栓症に遭遇したら本症を疑う.

●ネフローゼ症候群,L-アスパラギナーゼ投与,肝障害時には後天性にATが低下し,血栓リスクとなる.

学びのポイント

●ATは活性化凝固因子に結合して活性を阻害する抗凝固因子.

●ヘパリンはアンチトロンビンの活性を増強する抗凝固薬.

●先天性AT欠乏症は常染色体顕性遺伝.

●先天性AT欠乏症は,ほかの先天性血栓性素因と比較して血栓症リスクが高い.

▼定義

 アンチトロンビン(AT)の遺伝子異常による常染色体顕性遺伝の血栓性素因である.一般的には先天性のものをAT欠乏症(欠損症)というが,後天的にネフローゼや薬剤投与によりATが低下して,血栓症を引き起こすこともある.

▼病態

 ATは肝臓で産生される抗凝固因子である.半減期は2~4日程度で,トロンビンや活性化第Ⅹ因子などの活性化凝固因子に1:1で結合し,活性を阻害する(図8-44).凝固反応の進行を車のスピードに例えると,フットブレーキのように作用する.ヘパリン類はATに結合して,その阻害活性を約1,000倍も増強する.

 AT欠乏症とは,一般的には先天性の病態を指す.先天性はヘテロ接合体で発症する常染色体顕性(優性)遺伝である.そのため,子に50%の確率で遺伝する.AT欠乏症は,ほかの先天性血栓性素因と比較して,血栓リスクが高い(表8-31).外傷,手術,妊娠,経口避妊薬の内服などの誘因によって血栓症が引き起こされることが多い.後天性にATが低下する病態としては,播種性血管内凝固症候群や血栓症に伴う消費性の低下がある.リンパ球性白血病に用いられるL-アスパラギナーゼによる血栓症があるが,これは肝臓でのAT合成障害が一因である.ネフローゼ症候群では腎静脈血栓症などの血栓症を合併しやすいが,これはATの尿中漏出が原因と考えられている.

▼疫学

 先天

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