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治療

【3】圧挫症候群における急性腎障害
acute kidney injury in crush syndrome
土井 研人
(東京大学大学院准教授・救急科学)

疾患を疑うポイント

●長時間にわたる四肢あるいは体幹の圧迫がある場合.

●尿潜血が陽性であるにもかかわらず沈渣所見にて尿中赤血球が乏しい場合.

▼定義

 圧挫症候群とは四肢や体幹部が長時間にわたり圧迫され,その後解除された際に生じる全身的な症候群であり,横紋筋融解を主体とした筋組織障害を指す.この圧挫症候群において生じる合併症の1つに急性腎障害(acute kidney injury:AKI)がある.

▼病態

 尿細管腔における尿pHが低下して(酸性)流速が減少すると,挫滅した筋組織から放出されたミオグロビンが円柱を形成し尿細管腔を閉塞する.さらにヘム蛋白質であるミオグロビンはフリーラジカル産生による酸化ストレスを尿細管上皮細胞に及ぼし,直接的に腎組織に障害を加えうる(腎性AKI).また,挫滅した筋組織に細胞外液が移動し,血管内は脱水傾向に傾き腎前性AKIの要素も加わる.挫滅した筋組織の細胞内からは,大量のカリウム・リンも血中に放出されるため,高カリウム血症・高リン血症をきたす.一方,血中のカルシウムは挫滅筋組織に沈着するため,低カルシウム血症を生じる.

▼疫学

 意識障害や精神疾患により長時間の同一体位を余儀なくされた場合に体位性圧挫症候群が高い頻度で発症する.災害時では倒壊した家屋や重量物に下肢などを挟まれ救出に時間を要した場合,救出後に発症することが多い.阪神・淡路大震災では周辺95病院6,107人の入院患者のうち,372人(6%)が圧挫症候群を発症し,そのうち202人がAKI,123人は血液透析を要したと報告されている.

▼診断

 古典的な症状としては筋肉痛,筋力低下,濃い紅茶色の尿(ポートワイン尿)であるが,早期には症状が乏しいことが多い(表9-21).検査所見としてはAKIによる血清クレアチニン濃度の上昇に加えて,電解質異常(高カリウム血症や低カルシウム血症,高リン血症,代謝性ア

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