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治療

2 抗リン脂質抗体症候群
antiphospholipid syndrome(APS)
廣村 桂樹
(群馬大学大学院教授・腎臓・リウマチ内科学)

▼定義

 抗リン脂質抗体症候群(APS)とは,抗リン脂質抗体を有し,臨床的に動静脈血栓症あるいは習慣性流産などの妊娠合併症をきたす疾患である.本症候群ではしばしば腎臓が標的臓器となり,血栓性病態により糸球体障害,腎血管障害を生じる.抗リン脂質抗体を有し,特徴的な腎病理組織所見を認める場合,抗リン脂質抗体症候群腎症(APS腎症)とよぶ〔第13章のも参照〕.

▼病態

 抗リン脂質抗体は試験管内ではAPTTの延長に関与するが,生体内では凝固亢進による血栓症を惹起する〔詳細な機序については,第8章のを参照〕.腎臓では糸球体毛細血管から腎動静脈本幹に至るまで,幅広く血管障害が生じる.特に糸球体や細小動脈では血管内皮細胞障害と微小血栓を生じ,血栓性血小板減少性紫斑病,溶血性尿毒症症候群などの血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)とほぼ同一の病理所見を呈する.

 糸球体毛細血管の障害では,内皮細胞障害に伴い,メサンギウム融解,メサンギウム間入による糸球体基底膜二重化,内皮下腔拡大などがみられる.また細・小動脈の障害では血栓性病変により,反応性の内膜のムコイド肥厚,内皮下線維化,中膜過形成などがみられる.

▼疫学

 原発性APSはわが国では約1万人と推定されている.続発性APSは全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)患者に多く,約1万人と推定されている.海外では原発性APSの約25%に腎障害を生じることが報告され,ループス腎炎の約30%にAPS腎症の所見がみられたとの報告がある.

▼分類

 基礎疾患のない原発性APSと,SLEなどの自己免疫性疾患に伴う続発性APSに分類される.また特殊型として,急激に多臓器不全をきたす劇症型(catastrophic)APSがある.本症では短期間に中枢神経,腎臓,肺などに多発

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