診療支援
治療

1 転移性脳腫瘍
metastatic brain tumor
渋井 壮一郎
(帝京大学医学部附属溝口病院・脳神経外科客員教授)

疾患を疑うポイント

●他臓器の悪性腫瘍を有する患者での進行性神経症状出現.

●多発性頭蓋内病変として発見されることが多い.

学びのポイント

●CT,MRIで多発性頭蓋内病変として発見されることが多い.

●腫瘍周囲に広範な脳浮腫を伴い,症状の進行が速い.

●原発巣としての他臓器悪性腫瘍の治療中に発見されることが多いが,転移性脳腫瘍の症状が初発となることも珍しくない.

▼定義

 他臓器の悪性腫瘍細胞が血行性に頭蓋内に移行し腫瘤を形成したもの.

▼病態

 他臓器の悪性腫瘍の一部が,血管内に浸潤し,血行性に頭蓋内に到達して,腫瘤を形成する.中枢神経にはリンパ組織が存在しないため,リンパ行性の転移はない.腫瘍の種類により,発育速度は異なるが,一般的に増殖速度は速く,腫瘍周囲に広範な脳浮腫を伴うことから,神経症状は急速に進行することが多い.頭蓋内のどこにでも腫瘤を形成するが,脳の体積に応じて,前頭葉腫瘍が最も多い.また,単発より多発性病変が多く,最近では,診断機器の発達により,比較的小さく,神経症状も明らかでないうちに発見されることも少なくない.通常,脳内に腫瘤を形成するが,腫瘤をつくらず,髄腔内に腫瘍細胞が播種する場合もあり,髄膜癌腫症または癌性髄膜炎〔本章の参照〕とよばれ,予後はきわめて不良である.また,乳癌のように,硬膜に転移病巣をつくりやすいものもある.

▼疫学

 わが国では,毎年90万人前後が癌に罹患し,少なくともその10%に転移性脳腫瘍が発見されるといわれているため,その数は年間9万例程度と考えられる.これは原発性脳腫瘍数のおおよそ4~5倍に相当する.脳腫瘍全国集計調査によれば,原発病巣として最も多いのは肺癌(46.1%)で,乳癌(14.5%),大腸癌(6.0%),腎癌(4.2%),胃癌(3.3%),直腸・肛門癌(3.0%),食道癌(2.6%),子宮癌(2.3%),卵巣癌(2.0%)がそれに続き

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