疾患を疑うポイント
●脳炎であるが発熱・頭痛を欠く.
●学童期に知的障害,性格変化,脱力発作,歩行異常,四肢・体幹ミオクローヌスが出現・進行し,無動・無言状態に至る.
学びのポイント
●麻疹に感染後,数年の潜伏期間の後に発病する.
●発病後は数か月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し,現在でも予後は悪い.
●ワクチン接種の普及している国ではまれである.
▼定義
1~2歳の麻疹罹患時に体内に入り込んだ麻疹ウイルスが,中枢神経系に持続感染することによって学童期に起こる遅発性中枢感染症である.
▼病態
発症にはウイルス側の要因と宿主側の要因がある.前者には麻疹ウイルスの変異が挙げられる.変異株のSSPEウイルスはM蛋白を欠く不完全ウイルスで強い細胞結合力をもち,細胞融合を介して他細胞へ感染する特性をもつ.宿主側の要因として2歳未満での麻疹罹患がある.すなわち,免疫系や中枢神経系が十分に発達していない幼少期の初感染が,後の持続感染につながる.宿主の一般的な免疫不全状態は要因とはならない.病理学的には灰白質と白質の両方が侵される全脳炎であり,線維性グリオーシスにより硬化性変化を示す.臨床経過は1期(大脳徴候:知能低下,行動異常),2期(けいれん性・運動性徴候),3期(昏睡,後弓反張),4期(無言症,皮質機能消失)に分けられる.多くはミオクローヌスがみられる2期に診断される.
▼疫学
麻疹罹患後,平均7年後に数万人に1人の割合で発症する.麻疹ワクチンの普及後,発症数は減少し,わが国では年間10人以下である.発症に麻疹ワクチンの関連はなく,ワクチン接種により麻疹罹患とともにSSPE発症も予防可能である.
▼診断
学童期に亜急性進行性の知的障害と四肢・体幹ミオクローヌスを認めたら本疾患を疑う.検査では髄液,MRI,脳波の順で重要である.髄液で抗麻疹ウイルス抗体価の上昇,慢性炎症による髄液IgG増加,Ig