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治療

【7】神経梅毒
neurosyphilis
森田 昭彦
(日本大学准教授・神経内科学)

▼定義

‍ 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum:Tp)の感染によって生じる神経疾患の総称である〔第11章「梅毒」の項()も参照〕.

▼病態

 Tpは性行為や唾液などの体液を介した直接接触によって感染する.神経梅毒は晩期梅毒の症状と考えられていたが,Tpは感染後間もなく中枢神経系に浸潤することが知られている.髄膜や脳神経を主病変とする早期神経梅毒と,脳や脊髄を主病変とする後期神経梅毒に分けられる.無症候性神経梅毒は早期梅毒患者の約4割にみられ早期神経梅毒の95%を占める.髄液で細胞増多,蛋白上昇,髄液でのTpを抗原とする血清学的検査〔Tp抗原法(TPHA法,FTA-ABS法など)〕の抗体陽性などを認めるが神経症状を認めない.早期神経梅毒では髄膜炎による頭痛や悪心・嘔吐,項部硬直,けいれん,意識障害,脳神経炎による脳神経麻痺(視神経,動眼神経,聴神経麻痺が多い),虹彩炎,ぶどう膜炎,髄膜血管梅毒による脳卒中による頭痛やめまい,精神症状などがみられる.

 感染3年以後に発症する後期神経梅毒では進行麻痺による認知機能障害や人格変化のほか脊髄癆がみられる.進行麻痺の中核症状は広汎な大脳皮質の破壊により生じた脳機能の低下による認知症である.周辺症状として躁,うつ症状や統合失調症様症状,意識障害を認める.大脳皮質の障害によって理解力や判断力が低下し,記銘力障害や健忘が顕著となる.感情鈍麻による多幸性や抑制欠如による易怒性もみられ,末期には認知症が進行し高度の荒廃状態に陥る.このような精神症状とともにArgyll Robertson(アーガイル ロバートソン)瞳孔などの瞳孔障害や言語・書字の障害,特有の顔貌(paralytic face),四肢や頭部の振戦,腱反射の亢進などの身体症状を伴う.病変が大脳皮質の一部に限局し脳卒中様に麻痺や失語,失行などで発症するもの〔Lissau

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