診療支援
治療

【1】認知症総論
dementia
冨本 秀和
(三重大学大学院教授・神経病態内科学)

▼定義

 認知症は認知機能障害のために日常・社会生活に障害をきたした状態と定義される.一般的には,一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の器質的障害によって持続性に低下し,日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を意味している.

▼疫学

 わが国では,人口の高齢化に伴って認知症患者の増加が指摘されるようになって久しいが,2011年の厚生労働省の調査時点までは高齢者人口の3.8~11%程度と推定されてきた.しかし,2012年全国8市町で実施された認知症有病率調査の結果,高齢認知症者は462万人,高齢者の15%に達することが明らかになり,対策の緊急性が叫ばれるようになった.

 認知症患者数は世界的にみても増加傾向にあり,全世界では4,680万人と推定され今後も中・低所得国を中心に増加が予測されている.ただし,生活習慣病対策の進んだほかの先進諸国では認知症が減少に転じている地域もいくつか報告されており,わが国の状況は先進国としてはやや例外的である.

 明治以降,わが国の人口高齢化は世界で最も速いスピードで進行したため,生活習慣病対策の効果を得るまでにはまだ相応の時間を要する可能性,発症後の予後が改善し有病率の増加要因となっている可能性などが指摘されている.

▼分類

 認知症はいうまでもなく異質な器質病態に基づく臨床症候群であり,単一の疾患ではない.認知症のなかではAlzheimer(アルツハイマー)病(Alzheimer disease:AD)が最多を占めており,全体の6割前後に達する.このほか,報告により頻度が異なるものの血管性認知症が2割,Lewy(レヴィ)小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)が1割前後とする報告が一般的である.ADと血管性認知症は合併する頻度が高く,両者の合併はAD with CVD(cerebrovascular disea

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