診療支援
治療

16 アシネトバクター感染症
infection caused by Acinetobacter
高田 徹
(福岡大学病院・感染制御部教授)

▼定義

 アシネトバクター属は,土壌や河川などの自然環境中に広く生息するブドウ糖非発酵Gram陰性短桿菌の弱毒菌(図11-18)で,医療関連感染症の主体はAcinetobacter baumanniiによるものである.主に院内感染を含む医療関連感染として人工呼吸器関連肺炎,皮膚軟部組織感染症,菌血症などの日和見感染症を引き起こす.近年,カルバペネム系抗菌薬をはじめ多くの抗菌薬に薬剤耐性を示すA. baumanniiによる感染例の増加が世界的に問題となっている.

▼病態

 湿度の高い環境を好むが,乾燥した環境下でも数週間以上生存する.また,バイオフィルム形成能や高い接着能により各種器材や器質的・機能的障害を伴う表面上へ定着しやすい性質を有する.多様な耐性機序をもち,不都合な環境下で,各種抗菌薬への薬物耐性を発現したり獲得する能力が高い.院内では接触感染が主体であるが,室内の空気を介した感染も起こす.これらの特徴により,医療施設内のさまざまな部位が保菌のリザーバーとなりやすく,リスクが重複するICUや療養型医療施設などで感染の拡大を招きやすい.カテーテルの留置・人工呼吸・経管栄養,広域抗菌薬の使用などが定着のリスク因子となり,定着のみの保菌状態であることも多い.感染防御能力が低下した患者において,人工呼吸器関連肺炎,創部感染症,カテーテル関連血流感染症などの日和見感染症を引き起こす.定着が感染症発症のリスクファクターにもなり,しばしば両者の判別は困難である.まれに市中肺炎の原因となることもある.

▼疫学

 アシネトバクター属の菌は自然環境中に広く分布するが,A. baumanniiの自然生息域については十分明らかになっていない.健常者での保菌はまれで,傷害のある気道,創部などのほか,各種医療器材,高頻度接触面を中心とした医療環境に定着し,多様な経路で感染が拡大しやすい.

▼分類

 ブドウ糖

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