診療支援
治療

1 髄膜炎菌感染症
meningococcal infection
椎木 創一
(沖縄県立中部病院・感染症内科副部長)

疾患を疑うポイント

●急激に悪化する全身状態(意識障害,ショック)などをきたす場合,必ず鑑別診断に含める.

●特に脾機能低下などの免疫低下状態にある場合には重篤化しやすいので迅速に対応する.

▼定義

 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)によって引き起こされる感染症.

▼病態

 髄膜炎菌はグラム陰性双球菌(0.6×0.8μm)でそれぞれがコーヒー豆様の形態をとる.ナイセリア属に分類され,淋菌(N. gonorrhoeae)や口腔内に常在するほかのナイセリア属と同様に,鼻咽頭粘膜に存在する.わが国の健常成人では0.4~0.8%が保菌しているといわれるが,髄膜炎流行地域などでは保菌率は上昇する.そのなかから発症するのは保菌者の1%未満とされる.

 髄膜炎菌の病原性に関与するものとして,菌体外膜の外にある莢膜多糖体(polysaccharides)やリポオリゴ糖(lipooligosaccharide:LOS)とよばれるエンドトキシン,そして外膜から伸びる線毛(pili)が知られている.莢膜多糖体として13種が同定されているが,主にA,B,C,Y,Wの血清型が侵襲性感染症に関連する.菌体が白血球に貪食されても莢膜により細胞内で生存し,補体関連の免疫機序を回避できる.LOSは菌付着を促すとともに菌血症を起こした際には大量のサイトカインを惹起する.そしてpiliは気道上皮細胞への付着だけでなく,血流に入ってから血管内皮細胞に付着して菌がコロニー形成するための因子となる.

 宿主に抗体や補体による免疫機序が欠けていると侵襲性感染症を起こす.脾臓切除術後や無脾症,HIV感染症や糸球体腎炎などの免疫不全などがリスクとして挙げられる.

▼疫学

 髄膜炎菌はヒトにのみ保菌・感染する.気道分泌物や大量の飛沫核への曝露で伝播が生じるが,特に寮生活のような濃密な狭い空間での接触がリスクを高める.また

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