診療支援
治療

4 ムーコル症
mucormycosis
泉川 公一
(長崎大学大学院教授・臨床感染症学)

疾患を疑うポイント

●コントロール不良の糖尿病や長期の好中球減少などの免疫不全が感染危険因子である.

●副鼻腔に病巣をもつことも多い.

学びのポイント

●診断方法が十分でなく,生前に診断されるケースが少ない.

●診断後に,すみやかに切除することが治療として重要で,ポリエン系抗真菌薬が唯一の治療薬である.

▼定義・概念

 ムーコル症は,リゾプス属,アプシジア属,ムーコル属,カニングハメラ属などによる感染症の総称であり,かつては接合菌症と呼ばれていた.生前診断が難しく,深在性真菌症のなかでも最も予後不良な感染症の1つである.

▼病態・分類・疫学

 環境中に浮遊するムーコルを吸いこみ,経気道的に感染すると考えられている.感染危険因子は,長期の好中球減少,ステロイド薬使用,コントロール不良の糖尿病などである.感染部位により,鼻脳型,肺型,皮膚型,消化管型などに分類されるが,鼻脳型が最多であり,副鼻腔から感染が始まり,眼窩,口蓋,脳へと進展する.本菌は血管侵襲性がきわめて強く,急性に進行する.本症の頻度はそれほど高くはないものの,わが国の剖検症例における分離頻度はクリプトコックス症につぐ.

▼臨床症状・診断

 特徴的な臨床症状に乏しい.肺型の場合には,胸部X線写真で,さまざまな陰影パターンを示す.中心部がすりガラス影で周囲にコンソリデーションを伴うreversed halo signが病初期にみられることがあるが特異度は低い.細胞壁にβ-D-グルカンを保有しないため,血清(1→3)-β-D-グルカンは上昇せず,また,本症に特異的な血清診断法がないため,確定診断には病理組織学的,真菌学的検査が必要である.検体は,鼻脳型であれば,鼻腔分泌物,搔把組織片,副鼻腔吸引物を,肺型であれば,喀痰,肺組織片などを用いる.

▼治療

 すみやかな病巣部の切除やデブリードマンに加え,ポリエン系抗真菌薬の投与を行う.

▼予後

 宿主の

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