診療支援
治療

6 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ,ムンプス)
epidemic parotitis(mumps)
岩田 敏
(国立がん研究センター中央病院・感染症部感染症部長)

疾患を疑うポイント

●耳下腺,顎下腺などの唾液腺の腫脹,疼痛がみられる.

●流行性耳下腺炎患者との接触歴,周囲での流行がある.

学びのポイント

●ムンプスウイルスの飛沫感染,接触感染により起こる感染症で,耳下腺や顎下腺などの唾液腺の腫脹・疼痛と発熱が特徴.

●合併症として無菌性髄膜炎,難聴が重要である.無菌性髄膜炎の頻度は1~10%である.難聴の頻度は0.1~0.2%であり,発症した場合,多くは片側性,まれに両側性の不可逆的な難聴となるため,注意が必要である.

▼定義

‍ ムンプスウイルスの飛沫感染,接触感染により起こる感染症で,耳下腺や顎下腺などの唾液腺の腫脹・疼痛,発熱を特徴とする.

▼病態

 ムンプスウイルスはパラミクソウイルス科ルブラウイルス属のRNAウイルスである.

 体内に侵入したウイルスが上気道粘膜およびリンパ節で増殖し,ウイルス血症を起こして耳下腺,髄腔など全身に広がる.潜伏期間は通常16~18日,曝露後12~25日の間は発症する可能性がある.潜伏期間に引き続いて,発熱(時に無熱),耳下腺の腫脹で始まる.耳下腺の腫脹は一側,両側,時期がずれて両側の場合がある.固ゆで卵くらいの硬さの腫脹で,圧痛を伴うが,細菌性耳下腺炎のように発赤を伴うことはない.会話や咀嚼の際や,酸味のあるものを食べた際に痛みが増すのも特徴である.耳下腺以外にも顎下腺や舌下腺が腫れる場合もある.約1週間の経過で耳下腺の腫脹は軽快する.感染者の30~40%は不顕性感染である.

 主な合併症として無菌性髄膜炎,脳炎,膵炎,精巣炎,難聴などがある.頻度としては無菌性髄膜炎が多いが,難聴は不可逆的であるため疾病負担が大きく大きな問題となっている.

▼疫学

 感染症法に基づく感染症発生動向調査によれば,日本では1989年4月に麻しん・おたふくかぜ・風しん三種混合ワクチン(MMRワクチン)が定期接種として導入された後,一時的に報

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