診療支援
治療

(1)酸素欠乏症
anoxia
小島 直樹
(公立昭和病院・救命救急センター)

▼概説

 酸素欠乏症は労働安全衛生法(酸素欠乏症等防止規則)により,「酸素欠乏の空気(著者注:酸素濃度が18%未満)を吸入することにより生ずる症状が認められる状態」と定義される.なお,臨床現場でよくみる低酸素血症は,原因はなんであれ結果として動脈血内の酸素分圧が60mmHg以下の状態のことをいう.

▼発症のメカニズム

 通常ヒトの呼気の酸素濃度は16%程度である.したがって,それより酸素濃度が低い環境では,呼吸をすればするほど肺胞でのガス交換の際により低い酸素濃度に置換され,低酸素血症が増悪する.酸素濃度が低い環境には,①酸素が消費される空間,②酸素以外の気体が増加する空間がある.前者には,1)物の酸化(鉄製タンク,井戸),2)穀物,果菜,木材などの呼吸(穀物,果実の熟成庫,サイロ),3)有機物の腐敗,微生物の呼吸(汚水タンク,マンホール,醤油や酒のタンク),4)密閉環境(冷蔵庫,タンク)があり,後者には,1)不活性ガスの流入(窒素などのガスが封入されたタンク),2)冷媒用ガス滞留(冷凍庫,冷凍トラック内),3)ガス噴出(トンネル,プロパンガス漏れ,炭酸ガス消火装置の誤作動)などがある.

▼症状

 非特異的な中枢神経症状を認めることが多い.一般的に酸素濃度が16%になると頭痛,悪心,12%でめまい,筋力低下,不穏,8%で失神し7,8分以内に死亡,6%では瞬時に卒倒,呼吸停止,死亡する.

▼治療

 一刻も早く酸素欠乏環境から離脱させるために,換気あるいは現場から救出する.その際に,救出者の二次災害が発生しないよう厳重に注意する.治療は一般的な低酸素血症に準じる.つまり,十分な酸素投与を行い,必要に応じて呼気終末陽圧換気(positive end expiratory pressure:PEEP)を含めた陽圧人工呼吸管理を導入する.

▼予後

 曝露された酸素欠乏の程度,曝露された時間の長さにより

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