診療支援
治療

肺血栓塞栓症
Pulmonary thromboembolism
中村 琢哉
(富山県立中央病院 部長〔富山市〕)

【疾患概念】

 肺動脈内で血栓による塞栓を生じた状態が,肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)である.約90%は下肢や骨盤内の静脈で形成された血栓が血管壁から遊離・進展することにより,肺動脈内に塞栓を生じると考えられている.PTEは急性PTEと慢性PTEに分けられるが,一般に整形外科領域で対象となるのは,新鮮血栓が肺動脈を閉塞する急性PTEである.小さな血栓による小塞栓であれば無症候であるが,大きな血栓による塞栓では症候性のPTEとなり,ショック状態となった場合は致死率が非常に高い.かつてわが国では,周術期に長期臥床を強いてもPTEを発症することはほとんどなく,PTEは欧米の疾患と思われていた.しかし,現代においては,PTE発症は決して珍しいことではない.PTEを含む静脈血栓塞栓症に関しては,日本整形外科学会による「症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン」など,いくつかのガイドラインがある.

【病態】

 Virchowが提唱した3因子(①静脈血流の停滞,②血管内皮の障害,③血液凝固能の亢進)が血栓の誘発因子と考えられている.

【臨床症状】

 呼吸困難,胸痛が主症状である.失神,冷汗も重要な症候である.深部静脈血栓による下肢の浮腫,腫脹は認められないこともある.浮遊血栓では血管の完全塞栓はきたしにくいためである.

【危険因子】

 静脈血栓塞栓症の既往,長期臥床,肥満,高齢,下肢麻痺,下肢静脈瘤,悪性腫瘍,薬物(エストロゲン製剤,経口避妊薬),脱水,抗リン脂質抗体症候群などが危険因子である.整形外科領域では,骨盤・下肢の骨折,多発外傷,下肢ギプス固定がリスクとなる.手術侵襲,特に股関節・下肢手術や脊椎手術は危険因子である.

【発症の誘因】

 安静解除後の起立,歩行,排便・排尿に伴って発症することが多い.下肢の筋肉ポンプ作用により血栓が遊離すると考えられている.


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