診療支援
治療

脂肪塞栓症候群
Fat embolism syndrome
佐藤 秀峰
(大阪府済生会千里病院千里救命救急センター 副部長〔大阪府吹田市〕)

【疾患概念】

 脂肪塞栓症候群(fat embolism syndrome;FES)は骨折に伴う致死的合併症の1つである.大腿骨骨幹部骨折に合併することが多い.発症率は1%未満から30%以上と報告により差がある.これは診断基準が定まっていないことが原因である.重要な点は外傷患者において急激な呼吸状態の悪化,意識障害の出現,循環動態の破綻を認めた際にFESを疑うことである.人工呼吸管理,大量輸液,昇圧薬の使用が必要となることを認識し,適切な治療を遅滞なく行うことが求められる.呼吸状態の急激な悪化は人工呼吸管理のみでは対応できず,経皮的心肺補助装置(PCPS,ECMO)が必要となった劇症型も報告されており,自施設での対応が困難な場合は早期に転送を考慮すべきである.


診断のポイント

 典型例では受傷後12~72時間後に低酸素血症,意識障害,点状出血を3徴とする複数の症状で発症する.最初に呼吸困難,頻呼吸,低酸素血症,呼吸不全が出現したのちに神経学的異常が出現することが多い.神経学的異常は不穏から昏睡まで程度に幅がある.点状出血は結膜,頭部,頚部,腋窩にみられる.重篤なFES患者では凝固障害が出現することもある.劇症型FESでは右心不全,両心不全,急性呼吸窮迫症候群(ARDS),ショックから死亡に至る.外傷で入院した患者が頭部外傷,胸部外傷などの経過から想定されない突然発症の呼吸不全,意識障害を認めた場合は本症を疑わなければならない.わが国では鶴田の診断基準,欧米ではGurdの診断基準が知られている.胸部単純X線ではsnow storm appearanceと表現されるような両側肺野の斑状浸潤影を認めるが,肺水腫や肺胞出血との鑑別は難しい.正常と判断されることも多い.脳MRI拡散強調像ではstar-field patternといわれるびまん性,点状の高信号域を認める.


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