【概説】
頚部痛,上肢痛は日常診療において比較的頻度の高い愁訴である.一方で,原因が多因子であることが多いため,初診の段階で確定診断がつかないこともまれではない.大半の症例では,日常生活に深刻な影響を及ぼさないが,なかには重篤な疾患が潜んでいる場合もあり注意が必要である.
診断において重要なポイントは,疾患の頻度を念頭に置き,症状の強さや神経学的所見などを参考に,必要な検査を進めていくことと,まれながら重篤な障害を引き起こす疾患を見逃さないことである.例えば頚椎症やいわゆる肩こりなどは,頻度は高いものの検査所見は非特異的で,症状はself-limitedなことも多い.一方で,感染や腫瘍性病変に代表されるred flagに分類されるような疾患は頻度が低いものの,決して見逃してはならず,症例に応じて検査を迅速に行っていくことが重要である.
まずは①十分な問診を行い,②神経学的所見を含めた詳細な身体所見をとること,③単純X線を基本とした画像検査を行い,症例によっては④血液検査などを追加し,適切に診断を進めていく.
1.代表的な疾患
頚部痛,上肢痛を引き起こす疾患は多岐にわたるが,代表的なものを列挙する.①頚椎症(椎間板性,椎間関節性の痛み),いわゆる肩こりを含めた筋筋膜性の頚部痛や肩甲部痛,②神経障害を伴うものとして,頚椎症性脊髄症,頚椎症性神経根症,頚椎症性筋萎縮症,頚椎椎間板ヘルニア,頚椎後縦靱帯骨化症,③小児に起こる環軸椎回旋位固定,④外傷に伴う頚椎捻挫,骨折,脱臼,椎間板損傷,⑤関節リウマチに伴う頭頚移行部,上位頚椎,中下位頚椎病変,⑥感染(化膿性脊椎炎,結核性脊椎炎)や腫瘍性疾患(原発性,転移性),⑦歯突起周囲の偽腫瘍,石灰沈着(crowned-dens syndrome),石灰沈着性頚長筋炎,⑧頚椎外に病変を有する疾患として胸郭出口症候群,肩関節周囲炎,腱板断裂,変形性
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