診療支援
診断

腹部腫瘤
Abdominal Tumor
中村 郁夫
(元 東京医科大学八王子医療センター・消化器内科教授)

緊急処置

 1)上腸間膜静脈血栓症,2)絞扼性腸閉塞,3)S状結腸軸捻転症,4)腹部大動脈破裂の4疾患は,必ずしも腹部腫瘤を形成するとは限らないが,外科的処置を含む緊急対応をとらないと,致死的な状態になるリスクがあるので,念頭においておく必要がある。

診断のチェックポイント

定義:腹部腫瘤とは,腹部に生じたしこりのことであり,病因として,炎症,腫瘍,囊胞などがある。また,腫瘤の局在部位は,腹壁,腹腔内,後腹膜に分類される。病的意義を有するものとないものがある。

【1】病歴

❶腹部腫瘤に気づいた経緯(患者本人が気づいたのか,画像検査で見つかったのか),その時期,位置,大きさ,形状,硬さについて尋ねる。さらに,それらの推移についても確認する。

❷腹部腫瘤およびその周囲における自発痛,圧痛の有無について尋ねる。

❸全身症状:発熱の有無,体重の変化,便の異常(便通の頻度,血便の有無など),尿の異常(排尿の回数,血尿の有無など)について尋ねる。

❹女性の場合には,月経不順の有無,性器出血の有無,妊娠の可能性について尋ねる。

【2】身体所見

全身の診察:身長,体重,腹囲,脈拍数,血圧,体温を測定する。次に,全身を総合的に診察する。眼瞼結膜,眼球結膜の診察から,貧血・黄疸の有無を確認する。さらに,口腔内の診察に続き,頭頸部のリンパ節腫脹の有無を確認し,胸部の診察(呼吸音,心音・心雑音の評価)を行う。次に,腹部の診察に進む。

腹部の視診:腹部を十分に露出させたうえで診察を行う。腹部の膨隆の有無,皮膚表面の異常の有無について確認する。限局性の隆起として,腹壁瘢痕ヘルニア鼠径ヘルニア脂肪腫などがある。

腹部の聴診:腸雑音の頻度(亢進・減弱・消失),腸雑音の性状(金属性の異常音など)について評価する。さらに,腎動脈(両側),大動脈,左右の総腸骨動脈(両側)について,血管雑音の有無を聴取する。

腹部の打診:肺

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?