診断のポイント
【1】ヒトを宿主とするトリコモナス属の唯一の病原性原虫である腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)による感染症である。
【2】無症候性感染が多いが,特効薬のニトロイミダゾール系薬剤が著効するため積極的な診断治療による感染コントロールが望まれる。
【3】混合感染が少なくないため,腟トリコモナスが検出された場合には,他の性感染症についても網羅的に評価すべきである。
【4】腟および尿道分泌物,尿沈渣を検査材料とした直接法による顕微鏡検査では,運動性の栄養型を検出でき,また塗抹染色標本の顕微鏡検査では形態的特徴による種鑑別が可能である。
【5】検査用培地が各種販売されており,日数はかかるが検体の顕微鏡検査では検出できない低レベル感染を培養検査により検出できる。
症候の診かた
【1】感染経路:腟トリコモナスはその生活環において2分裂によって増殖する栄養型のみの形態をとり,環境耐性の囊子を形成しない。このため,感染は性行為を含むヒト-ヒト間の直接の接触による。
【2】寄生部位
❶男女の泌尿生殖器感染の腟トリコモナス症が最多だが,咽頭・扁桃炎や胸水,膿胸穿刺液などから腟トリコモナスが検出される異所寄生もある。
❷異所寄生の原因としては,オーラルセックスや出産時の母子感染(腟トリコモナス感染妊婦の出産では2~17%の頻度で新生児への経腟感染が起こりうる)などが考えられる。
❸誤嚥が原因と考えられる非病原性の口腔トリコモナス(T. tenax)や腸トリコモナス(Pentatrichomonas hominis)の呼吸器寄生もありうる。
【3】症候
❶感染者の約70%は無症候性だが,女性では尿道炎,Bartholin腺炎,腟炎のほか,子宮頸管や卵管に感染して骨盤内炎症性疾患の原因となり,また,男性では尿道炎,前立腺炎や精管炎の原因となりうる。
❷通常,感染から10日前後の潜伏期を経て
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