診療支援
治療

幻覚
hallucination
中込和幸
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・所長)

【定義】

 幻覚は,さまざまな症候群のうち,知覚の障害のなかの妄覚に含まれる.妄覚には,そのほかに錯覚が含まれるが,前者がそれに対応した外界からの刺激を伴わない知覚,すなわち“対象なき知覚”であるのに対して,後者は歪められて知覚する現象であり,対象が実在するか否かで区別される.Jaspersは,幻覚を真性幻覚と偽幻覚に分け,前者は真に知覚性を有するもの,すなわち明瞭に外界に定位され,客観性,実在感を伴うもの,後者は知覚性が弱く,内部の主観的空間に位置し,表象に近いものとしている.しかし,統合失調症患者の多くは,表象に近い幻覚についても実体性を強く訴えることも少なくなく,そういう意味では妄想に近い特徴を有することが多い.また,幻覚は複雑性から,閃光や色,単純な音など,意味ある形態や内容をもたない感覚要素からなる要素幻覚,人物の姿や物体,言葉や音楽などのように,多くの要素が組み合わさった複雑な内容の複合幻覚に分類される.前者は脳器質性疾患,後者は統合失調症に多くみられる.

【感覚器官による分類】

A.幻視

 器質性,症状性,中毒性など,意識障害に伴って生じることが多い.特にせん妄の際には,しばしば活発な幻視が出現する.アルコール離脱に伴う振戦せん妄時の小動物幻視はよく知られている.アルコール性せん妄の場合には,疾患の強度や意識障害の程度によって変動するが,幻視の実体性が減弱し,幻覚であると認識できる場合も少なくない.脳器質性疾患に関しては,要素的な幻視については後頭葉,複合的な幻視については側頭葉に損傷のある場合が多い.また,感覚遮断状態におかれると,幻覚が生じやすくなることが知られているが,視力の低下した高齢者が鮮明な幻視を体験するシャルル-ボネ症候群も有名である.

B.幻聴

 要素的な“幻音”も認められるが,人声などの言語性幻聴,幻声が多い.短い単語によるものから長い対話性の幻声までさ

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