診療支援
治療

不安(解離,離人症)
anxiety (dissociation, depersonalization)
永田利彦
(なんば・ながたメンタルクリニック・院長(大阪))

【定義】

 不安は自分の中または外界での危険に対する予期によって生ずる心配,恐怖感,心細さである.また,全般不安症の場合は,その対象が明確ではない不安であり,浮動性不安free-floating anxietyとされる.

 よく,正常範囲の不安には適応的な意味があることが指摘される.それは戦うか逃げるか反応fight or flight responseといわれる.不安は何らかの危険が迫っているシグナルであり,危険を察知し,どのように適切に対応するか考慮することは正常で,生物が生き延びるのに必要な機能である.また,その不安の対象は外界(環境)に対するものもあれば,自分の内,身体的な危険に対する不安であるかもしれない.例えば,ある学生が,今の学習レベルが十分でないことを察知し,このままでは次の期末試験で単位を落としそうなことを予期し,その後に遊びに行くことよりも図書館で学習することを選んだとすれば,それは文字通り正常範囲の不安であり,生きていくのに必要な危険察知能力である.一方で,周囲でみんながかかっている何でもないウイルス性の胃腸炎にかかっただけなのに,がんではないか,何か重大な内臓疾患ではないかと,病院を転々として種々の検査を受け,それでも納得できない場合は病的な不安といえる.このように病的な不安は,危険度を不正確かつ真実の程度に比べて明らかに過剰にとらえ,その危険度からして過度に保身的に対処することで,かえって日常機能に支障をきたす.

 病的な不安と正常な不安を程度,期間,とらわれの度合い,本人にとっての心理的,行動への影響の大きさから比較することができる.病的な不安はその状況(危険度)に似つかわしくないほどに過剰で,時間的に長く継続し,または繰り返して体験し,とらわれ,明らかに心理的に苦痛を感じ,行動に大きな変化を及ぼし,その人の全体的な機能に悪影響を与える.一方で正常範囲

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