診療支援
治療

減弱精神病症候群
attenuated psychosis syndrome (APS)
水野雅文
(東邦大学教授・精神神経医学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 DSM-5は,重症度と持続期間において統合失調症の診断基準は満たさないものの精神病状態に準じる状態の一群を,「減弱精神病症候群(準精神病症候群)」(APS)と名づけ,さまざまな議論の結果,本編ではなく,付録にあたる第3部の「今後の研究のための病態」に含めた.APSに関するこれまでの研究成果による疾患概念としての信頼性が不十分であること,その他の疾患との境界が不鮮明であること,さらにこうした顕在発症以前の状態に対して診断名を与えることの影響が考慮された結果である.

 精神病エピソードに先立つさまざまな症状は,身体疾患と同様に,後方視的には前駆症状と見なすことができる.しかし統合失調症やその他の精神病においてはエピソードに先立って特異的な(前駆)症状が存在するわけではない.したがって前駆症状を呈する者のすべてが顕在発症するわけではなく,多くの偽陽性を含むことになり,前方視的には前駆状態という語を用いることは正確ではない.

 APSをめぐる議論は,Yungら(1996)が精神病エピソードの発症リスクのある状態という意味でat-risk mental state(ARMS)という用語を提案したことに端を発する.ARMSには集中力低下や抑うつ気分,不安など非特異的な症状が含まれ,非精神病性の精神障害を負う個人や一般集団のなかにも高率に認められ,精神病の発病予測には適さない.より高率に精神病状態へ移行する危険の高い集団をとらえるために,Yungらは援助を求めて来院した者のなかで,①短期間の間欠的な精神病状態,②微弱な陽性症状,③遺伝的リスクと持続的機能低下,の3項目のうち1つを示す群を追跡すると約40%が1年以内に精神病状態に至ることを見いだし,ultra high risk群(UHR)とした.APSはこのうち②の微弱な陽性症状を主徴とする精神病の閾値下状態を指し

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