診療支援
治療

難治性うつ病
treatment-resistant major depressive disorder
井上 猛
(東京医科大学主任教授・精神医学分野)
市来真彦
(東京医科大学准教授・精神医学分野)

◆疾患概念

【定義】

 難治性うつ病(以下,本稿ではうつ病はDSM-5で定義されるうつ病を指す)とは,作用機序の異なる2種類以上の抗うつ薬を十分量(添付文書に記載される最大用量),十分期間(最大用量で4週間以上)用いても中等症~重症のうつ病症状が長期に持続し,社会機能が障害されるうつ病である.抑うつ症状が遷延しているときに難治性うつ病という診断はよく使われるが,実際には十分な抗うつ薬治療が行われていないことも多い.したがって難治性うつ病と診断する前に,十分な薬物療法を行っても症状が残存することを,個々の症例で確認する必要がある.

 2000年以前までは1種類の抗うつ薬に非反応の患者を難治性うつ病とする研究が多かったが,これらの患者は「その抗うつ薬に非反応」なだけであり,難治性(あるいは治療抵抗性)とはいえない.なぜならば,第二選択の抗うつ薬への変更により約半分は改善するからである.

 難治性うつ病の定義に「抗うつ薬への反応」〔例えばハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)の総点が50%以上減少〕を用いる場合も多いが,この考え方は「難治性うつ病」の概念の目的(いかにすべてのうつ病患者を寛解に導くことができるか)を考えると適切とはいえない.この定義によれば,抗うつ薬には反応したが,中等症の症状が残っているため,社会機能に大きな障害を有する患者が非難治性うつ病となってしまう(例えばHDRSが30点から15点まで改善した症例など).したがって,治療後の重症度を定義に用いたほうがよい.

【病態・病因】

 難治性うつ病の特徴として,不安障害併存が多い,現在の自殺の危険性が高い,メランコリアの特徴が多い,初回の抗うつ薬に非反応であることが多い,が報告されている.したがって,これら4つの特徴が認められる患者では,治療初期から難治である可能性を念頭において治療するべきかもしれない.

 偽性単極性うつ病(躁・軽

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?