診療支援
治療

混合性病相
mixed states
小笠原一能
(名古屋大学大学院客員研究者・精神医学)
尾崎紀夫
(名古屋大学大学院教授・精神医学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 双極性障害bipolar disorder(BP)でしばしば生じる,以下のいずれかの状態である.

1)躁病相に,抑うつ的要素を伴う.

2)抑うつ病相に,躁的要素を伴う.

【病態・病因】

 躁病相,抑うつ病相は,気分・行動・思考の3領域が同方向に過剰な振れ(亢進または低下)を生じた状態であるが,この3領域が個々,別方向に変動した場合には,混合性病相を生じるとされる.その背景に視床下部・下垂体・副腎皮質(HPA)系の亢進や甲状腺機能障害などの影響も指摘されているが,分子病態は不明である.

【疫学】

 BP患者の30-40%に生じ,女性に多いとされる.

【経過・予後】

 発症年齢が低いBP患者が混合性病相を呈しやすい傾向にある.また再発・入院回数や自殺企図,物質乱用リスクの増加増大など,予後の悪化因子である.うつ病と診断された患者でも,その経過中に,混合性病相がみられた場合は,BPに転ずる可能性が高い.

◆診断のポイント

 以下の2パターンが,臨床上問題となりやすい.

1)躁的だが,不機嫌,不安症状などが目立つ.

2)抑うつ的だが,焦燥,易怒性などが目立つ.

 特に2)が生じているうつ病患者においては,BPの可能性(現時点でも,今後も)を念頭におく.またDSM-5の診断基準のなかの特定用語「混合性の特徴を伴う」も参考になるが,この基準は狭すぎるとの批判も強く,広めの診断基準として表1なども参考にする.

◆治療方針

A.治療方針の概要

 合理的薬物療法と自殺予防が重要で,自殺念慮が強ければ入院治療を考慮する.

 抗うつ薬は病状の不安定化をきたしやすく,原則使用しない.

 不安・不眠症状にベンゾジアゼピン系薬を使用しうるが,奇異反応による脱抑制や処方薬依存を回避すべく,単剤で適切な投与量・投与期間とする.

B.薬物療法

 気分安定薬と新規抗精神病薬の併用が基本となる.耐糖能異常などの副作用に注意

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