診療支援
治療

非定型うつ病
atypical depression(VD)
大前 晋
(国家公務員共済組合連合会虎の門病院・精神科部長(東京))

◆疾患概念

【定義・病型】

 電気けいれん療法electroconvulsive therapy(ECT)や三環系抗うつ薬tricyclic antidepressant(TCA)が奏効する「定型」うつ病に対し,「非定型」うつ病atypical depressionは,ECTやTCAが無効で,モノアミン酸化酵素阻害薬monoamine oxidase inhibitor(MAOI)が効果を現す病態として提案された.それまでは,神経症あるいはパーソナリティの病理と見なされて精神療法の対象となっていた病態である.

 1959年,WestとDallyは,抑うつ性あるいはヒステリー性の特徴と不安・恐怖症状をもつ「非定型」うつ病像に対して,ECTは無効で,MAOIの一種iproniazidが奏効すると論じた.Sargantはこれを《反応性,外因性,非定型あるいは「ヒステリー性」うつ状態》であり,《機嫌が悪く,易刺激的で,過活動で攻撃的であり,内因性うつ病の患者とまったく似ていない》と記述した.時代はくだり,Kleinらコロンビア大学グループによる精力的な臨床研究を経て,1994年のDSM-Ⅳで採用された.

 近年,双極Ⅱ型障害あるいはソフト双極スペクトラムとの関連病態として非定型うつ病をとらえる考え方が流行しつつあるが,単極性うつ状態のカテゴリーでとらえる考え方が本来である.

【病態・病因】

 非定型うつ病像の主要な特徴を,以下に挙げる.対人関係の拒絶に敏感な女性に多い,若年発症の慢性軽うつ状態で,過眠・過食,脱力感を呈し,気分は喜ばしいイベントに反応して改善するため,病的なうつ状態と性格反応との区別が難しい.しかしこれらの群に対する疾患論的定義と治療方針の提案は,各研究グループによって多種多様であり,統一的見解に至っていない.

 身体医学的病因は不明である.ただし生物学的所見の研究は,内因性うつ

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