診療支援
治療

血管性うつ病
vascular depression
秋田怜香
(桜ヶ丘記念病院・精神科)
三村 將
(慶應義塾大学教授・精神・神経科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 血管性うつ病vascular depression(VD)は①脳卒中後にうつ状態を呈した脳卒中後うつ病post stroke depression(PSD)と,②うつ病患者において,明らかな脳血管障害のエピソードがないにもかかわらず,脳MRIなどの画像検査で脳血管障害を認めるMRI-defined VDの2つに大別される.

【病態・病因】

 PSDの発生機序として,脳卒中によって生じた身体機能障害などへの了解可能な心因反応という見方もあるが,その一方で障害の程度を一致させた整形外科患者と脳卒中患者とを比較したところ,うつ病の発症頻度は脳卒中患者で有意に多かったという報告があり,少なくとも心因反応だけでは説明がつかない.おそらく脳の損傷による器質因が直接関与し,さらに心理・社会的要因も影響して複合的な要因で生じてくるのであろう.MRI-defined VDでは,微小な脳血管病変の蓄積がもともとの内因性の要素や脳の脆弱性を顕在化させ,うつ病発症の閾値を低下させるという説がある.

 いずれの場合にも,情動に関与する皮質-線条体-淡蒼球-視床-皮質回路の機能障害がうつ病の発症にかかわっているという説が提唱されている.

【疫学】

 PSDの有病率としては,急性期と回復期リハビリテーション期とを合わせた脳卒中患者の追跡調査では,2年間に約半数の患者がうつ状態を発症したとされている.MRI-defined VDでは,発症年齢や脳MRI検査時の年齢が高いほど無症候性脳梗塞の頻度は高く,老年期発症のうつ病患者では9割以上に血管性病変を認めるともいわれている.

【経過・予後】

 PSDに罹患すると,ADLの回復遅延や認知機能の悪化,さらに死亡率の上昇などが生じるとされている.脳卒中後6か月の間に抗うつ薬の投与を受けた患者群は,プラセボ群に比べて9年後の生存率が2倍以上であるという報

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