診療支援
治療

心気症(病気不安症)
hypochondriasis (HYP) (illness anxiety disorder)
松永寿人
(兵庫医科大学主任教授・精神科神経科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 心気症(HYP)は,DSM-5では病気不安症illness anxiety disorderとよばれ,身体症状は存在しない,あるいは頭痛や耳鳴,腹部不快感などの軽微な身体的徴候や症状について,自分が何か重篤な病気に罹患している,あるいはそのような病気にかかりつつあるという不安にとらわれるものである.通常は,抑うつ気分や落ち着きのなさ,焦燥感などの精神症状を伴う.このとらわれは,適切な医学的評価や健康であるという十分な保証を与えても修正が難しく持続的であり,自分の不安が適切に受け入れられない場合,主治医に対する不信や不満が高まってドクター・ショッピングに至ることがある.

 DSM-5では,このように頻繁に「医療を求める病型」と,強い不安から医療をめったに受けずに回避している「医療を避ける病型」に分類する必要がある.多くの場合,このようなとらわれの過剰性や不合理性をある程度は認識しているが,洞察が乏しい場合もある.

 一方,ICD-10では,心気障害hypochondriacal disorderとされ,おおむねHYPと同様に診断されるが,身体感覚のみならず,身体的外観へのとらわれも対象となり,DSM-5の醜形恐怖症(身体醜形障害)に相当するものが含まれる.

【病態・病因】

 HYPの背景には,加齢や死に対する恐怖を認めることが多い.重篤な疾患,特に小児期での既往や,家族が病気になるという過去の経験が,その発症にかかわることがある.またHYPをきたしやすい性格傾向としては,自己愛性,ヒポコンドリー性基調(内省的で,物事を気にしやすく,こだわりやすい)などがある.

 HYP発症に至る要因として,①病気への心配・固執に伴う疾病恐怖や不安,抑うつなどの精神症候群,②身体感覚への増大した知覚と,それらに対する認知的誤り,③対人関係上の報酬を引き出すうえでの社会的学習行動

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?