診療支援
治療

児童・思春期の気分障害
mood disorders in children and adolescents
齊藤卓弥
(北海道大学大学院特任教授・児童思春期精神医学講座)

◆疾患概念

【定義・病型】

 気分障害は,従来,成人期に発症する疾患として考えられていた.しかし,近年,気分障害の発症が児童思春期にさかのぼることができると報告されるようになり,児童・思春期における気分障害の適切な診断と治療の重要性が認識されるようになった.特に,1980年代になり,子どもにも成人と同じ診断基準を適応しうるうつ病が発症することが明らかになった.その後,子どものうつ病は,成人と同一の診断基準を用いて行われるようになった.

 また,1990年代に米国において入院・外来での子どもの双極性障害と診断される症例が急激に増え,子どもの双極性障害の定義・診断に関しての議論が深まった.DSM-5ではその趨勢を反映し,子どもの双極性障害の診断に関して,診断的特徴のなかで子どもの双極性障害の診断時の留意点が記載されるようになった.同時に過剰な双極性障害の診断を避けるために持続的な易怒性を中心とした行動の制御不全のエピソードを呈する症例に対して,重篤気分調節症という新たな診断が抑うつ障害群に追加された.子どもの気分障害は,発達段階によって臨床的な表現型や治療への反応性が異なり,発達レベルを考慮した診断・治療が重要である.

【病態・病因】

 遺伝的要因と環境要因が複雑に発症に関与している.うつ病,双極性障害ともに遺伝負因が発症に大きくかかわっていることが報告されているが,特定の遺伝子は特定されておらず,複数の遺伝子の関与が疑われている.また,虐待や幼少期のネガティブな体験が発症のリスクになることも報告されている.脳のモノアミン系システムの異常,HPA系の異常が報告されている.

【疫学】

 欧米疫学調査では子どもの約5-8%にうつ病がみられ,年齢が高くなるにつれて頻度が増加すると報告され,12-16歳の間に発症の危険率は急激に上昇し,40歳まで緩やかに上昇し続けることが報告されている.わが国の疫学

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