診療支援
治療

アルツハイマー病
Alzheimer's disease (AD)
新井平伊
(順天堂大学大学院教授・精神行動科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 認知症の原因疾患として最も頻度の高いもので,ドイツの精神医学者Alois Alzheimer博士による1906年の症例報告(学会発表)に基づき名づけられた.

 65歳未満に発症する初老期発症型(早発型)とそれ以降発症の老年期発症型(晩発型)に分けられる.また,常染色体優性遺伝形式をとる家族性アルツハイマー病もまれにあるが,特にわが国では遺伝負因が明らかでない孤発性ADがほとんどである.

【病態・病因】

 原因はいまだ不明であるが,遺伝的要因と環境因子が関与する何らかの機序でアミロイドβ蛋白(Aβ蛋白)が重合・沈着し,その後の細胞変性から神経伝達物質異常や脳萎縮へとつながると想定されている(図1).これがアミロイド仮説と呼ばれ有力視されている.

 臨床症状は中核症状と周辺症状に大別され,前者は記憶障害を中心とした認知機能障害であり,後者は主に精神・行動症状behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)からなる.記憶障害に最も関連が深いと考えられるのがアセチルコリン作動系神経細胞の障害であり,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬による治療薬が考案された.

【疫学】

 わが国で462万人にも及ぶと推定される認知症患者の約60%はADである.多くは高齢発症(65歳以降)であるが,初老期発症(40-65歳)の認知症患者が4万-5万人と推計されている.

【経過・予後】

 ADの全経過は15-20年であり,日常生活が自立している第1期(5年),介助を要する(半介助)となる第2期(5-8年),全介助となる第3期(5-8年)である.根治的治療薬がない現時点では,予後は不良である.初老期発症ADでは一般的に進行が早いとされる.また,死因は第2-3期における肺炎などの身体的合併症であるため,その有無により全経過は

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