診療支援
治療

高齢期の気分障害
mood disorders in late life
馬場 元
(順天堂大学大学院准教授・精神行動科学)

◆疾患概念

【定義・病型】

 DSM-5への改訂に際し,それまでうつ病(大うつ病性障害)や双極性障害が分類されていた「気分障害」というカテゴリーはなくなり,それぞれ異なる障害群として分類された.これら疾患概念および診断基準については本誌別項を参照していただき,ここでは従来「気分障害」とされていたなかで,特に高齢期のうつ病に焦点を当てて解説する.

A.臨床的特徴

 高齢期のうつ病は若い世代と比べるとその臨床像が多彩であるが,一般に焦燥感が強く,心気的で身体症状や食欲低下が多く認められるとされる.このため高齢者において多彩な身体症状が同時期に多発した場合には,その背景にうつ病を疑う.身体症状が前景に立ち,抑うつ気分が目立たないうつ病を「仮面うつ病」とよぶ場合がある.身体的愁訴は心気妄想へと発展することもあるが,ほかにも罪業妄想や貧困妄想といったいわゆる微小妄想や被害妄想などの妄想も少なくない.最近の調査で自殺念慮は高齢期のうつ病において多くはないとされたが,自殺を企図した場合の既遂率は高く,やはり注意を要する.

【病態・病因】

 高齢期のうつ病では,加齢に伴う脳器質的変化によって認知機能が低下し,心理的ストレスに対して臨機応変に対応することが困難となる.こうした脳の器質的脆弱性を背景に,「喪失体験」などのストレスフルなライフイベントがトリガーとなり,うつ病の発症に至ると考えられている.

 脳器質的要因として,脳の加齢による萎縮や脳血管病変による認知機能の低下が挙げられる.特に高齢期に発症したうつ病では,しばしば深部白質の血管病変や無症候性の脳梗塞が多発していることが観察され,これが病態に関係していることが示唆されている.これは治療的介入や予後の見通しのうえでも1つのポイントとなるので,可能な限り頭部のCTやMRIで一度はチェックすべきである.

 心理・社会的要因として「喪失体験」は重要である.

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