診療支援
治療

悪性腫瘍に伴う精神症状
psychiatric symptoms due to malignant tumor
井上真一郎
(岡山大学病院・精神科神経科)
内富庸介
(国立がん研究センター中央病院支持療法開発センター・センター長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 担がん患者においては種々の精神症状が出現しうる.症状性精神障害としては,低栄養に伴うビタミン欠乏症(ウェルニッケ-コルサコフWernicke-Korsakoff症候群やペラグラ脳症),尿毒症性脳症,肝性脳症などのほかに,腫瘍随伴症候群paraneoplastic syndromeとして,悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症,異所性ADH産生腫瘍による低ナトリウム血症(SIADH),異所性ACTH産生腫瘍によるCushing症候群,腫瘍の遠隔効果による傍腫瘍性辺縁系脳炎などがある.また,器質性精神障害としては,脳腫瘍あるいは転移性脳腫瘍などがある.そのほかにも放射線治療や化学療法,オピオイドやステロイドなどの副作用による精神症状を認めることもあり,またストレス反応としての不安・抑うつ状態なども起こりうる.よって,担がん患者の精神症状に対応するためには,上記のような疾患について十分理解しておく必要がある.

 本項では悪性腫瘍に伴う精神症状として,①悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症,②異所性ADH産生腫瘍による低ナトリウム血症,③異所性ACTH産生腫瘍によるCushing症候群,の3つの内分泌異常に伴う腫瘍随伴症候群について述べる.なかでも最も頻度の高いとされる①について主に述べることとし,②および③については別項『内分泌疾患に伴う精神症状』()も参照いただきたい.

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症

【病態・病因】

 一般的に,血清カルシウム濃度が12.0mg/dL以上になると高カルシウム血症として臨床症状が出現することが多い.

 悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の機序については以下の2つに分類される.

1)腫瘍細胞から産生されるホルモンによるものhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM):腫瘍細胞から副甲状腺ホルモン関連ペプチドpara

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