◆疾患概念
不眠は日常臨床で最もありふれた訴えだが,主治医からは「不眠で死ぬことはない」と軽視される傾向があった.最近では良好な睡眠が高血圧,肥満,糖尿病や癌などの内科疾患そのものの管理や予後に影響すると報告されている.
したがって,内科疾患による不眠の一節を設ける医学的根拠は十二分にある.
【定義・病型】
内科疾患による不眠症の基本的特徴は,同時に存在する内科疾患によって引き起こされるという点である.入眠困難や睡眠維持困難がもたらされるか,あるいは目覚めがすっきりしなかったり,ぐっすり眠れなかったりすることを心配するのが特徴である(表1)図.
【病態・病因】
多くの内科疾患のため慢性的不眠が引き起こされる.正常な睡眠をとるためには身体的に快適でなければならないので,痛み・呼吸障害・移動制約・中枢神経症状を引き起こす障害によって,入眠困難や睡眠維持困難が引き起こされる.慢性疼痛では,目覚めがすっきりしないという訴えが多い.慢性閉塞性肺疾患(COPD)の場合,入眠困難,呼吸窮迫に随伴した頻回の覚醒,朝目を覚ましても十分休んだ感じがしないことが特徴である.睡眠関連喘息の場合,呼吸困難とともに夜間覚醒がよく認められる.更年期に随伴した睡眠障害も多く,不眠を訴えることがある.妊娠でも,特に第3期で睡眠障害が生じる.頻回の夜間覚醒と徐波睡眠の欠如が一般的である.癌性疼痛を抱えて,余命いくばくもない病床で安眠できる患者は皆無に近い.
内科疾患による不眠症でも,眠りに対する過度の心配,よく眠れないことに対する不安,日中の機能不全の訴えなどが随伴する.原疾患の回復や予後,そして社会生活上の支障などの不安が不眠を増悪させる.
【疫学】
疫学研究によれば,内科疾患による不眠症は一般人口の0.5%,臨床人口の4%程度である.どの年齢でも発症するが,通常は中年期以後である.高年齢層で最もよく認められる.
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