◆疾患概念
【定義・病型】
夜間睡眠の質的量的障害の有無にかかわらず日中の過剰な眠気を生じるものを過眠症(狭義)という.睡眠中枢の過活動や覚醒中枢の機能低下など中枢神経の機能異常が原因と想定され,ナルコレプシーはその代表である.日中の居眠りの反復と情動脱力発作の組み合わせにより特徴づけられ,1つの疾患単位と考えられている.以前は睡眠麻痺と入眠時幻覚を加えて4主徴,あるいは夜間の熟眠障害を加えて5主徴と称されたが,これらの症状は全例でみられるわけではない.
【病態・病因】
ナルコレプシーの不思議な症状は,2つの基本障害から説明されてきた.1つは単相性の睡眠覚醒リズム(1日1回眠ればあとは起きていられる)が分断化し,乳児のように多相化する障害,もう1つはレム睡眠の構成要素である随意筋の緊張消失,夢体験が意識水準の十分な低下を伴わずに生じる障害(レム関連症状)である.前者によって居眠りの反復と夜間中途覚醒が説明される.後者は情動脱力発作や睡眠麻痺・入眠時幻覚の背景となる.
ナルコレプシーの病態基盤に覚醒性神経ペプチドであるオレキシンの異常低値が知られる.オレキシン神経の機能低下に基づき,ナルコレプシーは「睡眠覚醒スイッチの不安定化」が病態であると提唱され,上述の2つの基本障害の基盤が説明可能となった.睡眠中枢と覚醒中枢は相互に抑制性の神経入力を行うことから睡眠覚醒の素早い切り替えが可能と説明される.いったん覚醒状態となると睡眠中枢が強く抑制されるため,安定した覚醒が持続する.ところがナルコレプシーでは覚醒状態の安定化に寄与するオレキシンが不足するため,スイッチが不安定となり,居眠りが反復され,また睡眠と覚醒の移行が容易に生じ,中間である寝ぼけ様状態が長引いてレム関連症状を引き起こすということである.
【疫学】
ナルコレプシーは世界的には約2,000人に1人であるが,わが国では600人に
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