今日の診療
治療指針

Ⅰ.上気道感染症の外来治療
藤本卓司
(耳原総合病院・救急総合診療科部長)


A.かぜ症候群


 かぜ症候群はその大多数(少なくとも70%以上)がウイルスによる.成人ではライノウイルス,コロナウイルスをはじめ,さまざまなウイルスが原因となるが,EBウイルス,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス,さらにHIV感染症の急性期,ウイルス肝炎の初期も同様の症状を呈することを忘れない.

 基本的にself-limitedであり,一般に1~2週間以内で軽快する.2週間以上症状が持続する場合は,合併症の続発やほかの疾患を考える.一方,2週間を経過しても26%で咳嗽が残存する(感冒後の咳嗽遷延)ことも念頭におく.

1.かぜ症候群における膿性分泌物の考え方

 かぜ症候群において,膿性の鼻汁や喀痰はよくみられる.しかし,膿性分泌物=細菌感染症とは限らない.膿性分泌物はウイルス感染症でもよくみられる.白血球や脱落した上皮細胞が存在すれば細菌感染症でなくても分泌物は膿性となる.ウイルス感染症であっても37%の症例で喀痰中白血球10/HPF超であり,膿性を呈する.逆に白血球10/HPF超である喀痰において細菌が観察されるのは48%にすぎない.

 膿性分泌物をみたとき,細菌性か否かを判断するためにはグラム染色を行う.白血球とともに同種の細菌が再現性をもって複数の視野で認められれば細菌感染症の合併であると判断できる.

2.治療

 原因のほとんどがウイルスであるから,かぜ症候群と診断した際は,抗菌薬を処方してはならない.症状緩和の治療を十分に行う.抗菌薬の予防投与は細菌性感染症の合併症を減少させない.抗菌薬をむやみに投与することは副作用,耐性菌の出現など弊害のほうが大きい.

3.かぜ症候群に似た抗菌薬が必要な疾患

 かぜ症候群に類似した病態であるにもかかわらず,抗菌薬が必要であるのは,マイコプラズマ感染症,百日咳,Q熱などである.

・マイコプラズマ気管支炎やマイコプラズマ肺炎は乾性咳嗽が特徴的とさ

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