GL改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC(2021)
治療のポイント
・腹部外傷患者に対する初期診療において最も大切な判断は,開腹術を中心とする根本治療の適応である.
・ショックを呈する大量腹腔内出血患者においては,迅速な根本的止血が救命のポイントである.
・明らかなショックを認めないものの持続性出血がある患者では,受傷から2~4時間以内に経動脈的塞栓術,あるいは開腹術の適応を判断する.
・腹膜炎,あるいは十二指腸損傷などの後腹膜炎症病態の患者では,受傷後6時間以内に手術を行うべく判断する.
・腹部刺創患者で成傷器が腹腔内に達して刺さったまま,腸管脱出を認める場合には,原則として開腹術を行う.
◆病態と診断
・鈍的外傷,穿通性外傷のいずれも,開腹術を要する病態は腹腔内出血と腹膜炎である.前者には後腹膜出血,後者には十二指腸損傷や膵損傷などによる後腹膜の炎症を含める.外傷患者に対する標準的初期診療を実施し,これらの病態を適切なタイミングで評価して手術適応を決定する.
・腹部外傷では緊急度と重症度が治療方法に影響するが,優先順位の決定には緊急度が重要である.
・腹膜炎に対する治療より出血性ショックや持続性出血への緊急度が高く,緊急度と治療までの時間は以下の3つに分けて考える.
1)ショックを伴う腹腔内出血の止血:受傷から1時間以内
2)明らかなショックを伴わない持続性出血の止血:受傷から2~4時間以内
3)腹膜炎に対する治療:受傷から6時間以内
◆治療方針
A鈍的外傷における開腹術の適応
1.循環動態が不安定な場合の超緊急開腹術
ショック状態で搬入され,1Lの急速輸液を行っても循環不全が改善しない腹腔内出血患者は,超緊急開腹術の適応と判断する.腹腔内出血の評価は,患者を移動させることなく施行可能な超音波検査(FAST:Focused Assessment with Sonography for