Ⅰ.赤痢アメーバ症
頻度 あまりみない
GL寄生虫症薬物治療の手引き-2020-改訂第10.2版
◆病態と診断
A病態
・赤痢アメーバ症の起因原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は,患者便に排出される感染性嚢子の経口摂取(糞口感染)によってヒトに感染するため,本症は男性同性愛者に多発し,また療養施設などにおける便の不適切処理を原因とする集団感染がある.また,海外では糞便による水・食品の汚染があり,帰国者下痢症例(輸入感染症)も要注意.
・アメーバ赤痢は感染症法5類全数把握疾患であり,年間届出数は累計529件〔感染症発生動向調査(IDWR)週報速報データ 2022年第52週〕.
・小腸下部で脱嚢した栄養体は回盲部から大腸全域において二分裂により増殖し,アメーバ性大腸炎,さらに粘膜下に浸潤してアメーバ赤痢,また,血行性もしくは直接の浸潤によって腸管外アメーバ症の原因となる.
・腸アメーバ症では,無症候性から回盲部の多発性潰瘍を伴うアメーバ性大腸炎(便潜血がしばしば陽性),さらにアメーバ赤痢といった多彩な病態をみる.アメーバ赤痢は,典型的には,嚢子摂取後約2週間から赤痢様下痢症(しぶり腹を伴うイチゴゼリー状の粘血便)として緩徐に発症.腹痛,発熱,体重減少をみる.劇症化例では大腸壊死や中毒性巨大結腸症が起こりうる.まれに慢性腸炎を経てアメーバ腫(ameboma)とよばれる腫瘤性病変が形成される.
B診断
・糞便の直接顕微鏡検査で栄養体による赤血球貪食像を検出できれば確定診断となる.また,4核の成熟嚢子も検出される.大腸内視鏡所見では,中央部にアフタ様~深堀れ潰瘍を伴うタコいぼ状びらんが特徴的.潰瘍底には白苔がみられ生検ではこの部分に栄養体の組織浸潤像を認める.
・腸管外アメーバ症では肝膿瘍が最多である.典型的には,38℃以上の発熱を伴う右季肋部痛として発症.生化学所見とし