頻度 あまりみない(ただし,沖縄県在住の高齢者層においては,その10%程度が不顕性持続感染者であると推定される)
GL寄生虫症薬物治療の手引き-2020-改訂第10.2版
治療のポイント
・無症候感染者が多い一方,免疫抑制状態にある患者では過剰感染や播種性感染が生じ,死亡に至る危険があることに留意する.
・奄美・沖縄,九州南部出身の高齢者,特にヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染者,免疫抑制薬使用者が慢性の消化器系症状を示す場合,あるいはグラム陰性桿菌による菌血症,肺炎,髄膜炎を呈する場合に本症を積極的に疑い,検査を実施することが重要である.
◆病態と診断
A病態
・糞線虫症は線虫の一種である糞線虫(Strongyloides stercoralis)が引き起こす寄生虫症である.糞便に汚染された土壌中に生息する本虫の幼虫が経皮侵入することで感染が成立する.
・糞線虫は自家感染という特殊な感染経路を有する.本経路により糞線虫は数十年にわたりヒト体内に持続感染しうる.
・わが国においては沖縄・奄美地方,九州南部が浸淫地であるが,衛生環境の改善した現在では新規感染者の発生はほぼ皆無であると考えられ,ほとんどすべての保虫者は数十年前より持続感染状態にある高齢者である.
・少数寄生の場合は無症状に経過することが多い.寄生虫体数が多くなると,下痢,軟便,腹痛,腹鳴などの非特異的な腹部症状が出現する.
・宿主の免疫低下状態のもとで自家感染経路が増強され,感染虫体数の著明な増加や全身臓器への播種性感染が起こる(重症糞線虫症).ステロイドなどの免疫抑制薬の使用とHTLV-1感染が重症糞線虫症発症の2大リスク因子である.
・HTLV-1感染者はTh2型免疫応答が減弱している傾向があり,HTLV-1感染者においては非感染者と比較して糞線虫症の罹患率,重症化率,および治療抵抗性を示す割合が高いことが報告されて