A.ER診療のポイント
●失神は全脳虚血,すなわち血圧低下による一過性の意識障害である.発作時に筋緊張低下を伴うので,立位で発症すると意識を失ったまま転倒し,頭部や顔面に受傷することが多い.頭部・顔面外傷や転倒の患者をみたら,原因の一つとして失神を疑うべきである.
●一過性意識障害の原因には,失神の他にてんかん,転倒と脳震盪(逆行性健忘),くも膜下出血,一過性脳虚血発作,低血糖,過換気症候群,ヒステリーなどがあり鑑別を要する.
●失神の原因検索には,①12誘導心電図,②血圧の立位変化の評価,が必須の検査である.
●心原性失神は急死の前兆であるから見落としてはならない.
●失神は救急搬送患者の3%以上を占める.大部分は血管迷走神経性失神*1など神経反射による一過性血圧低下が原因(神経起因性失神*2)で,予後はよい.
●坐位で発症する失神が30%以上ある.坐位で椅子の背もたれに寄りかかったまま失神すると,重力負荷が解除されないので低血圧・徐脈が遷延して致死的となることがある.
*1:血管迷走神経性失神:失神の最も多い原因.睡眠不足,過労,空腹,精神的刺激,痛み,医療行為(採血など)に誘発され,徐脈と低血圧のために失神する.悪心,眼前暗黒感など失神の一般的な前兆のほかに,身体が温かくなる感覚(筋血流増加)を伴う.
*2:神経起因性失神:血管迷走神経性失神,頸動脈洞過敏症候群,状況失神の3つを併せて神経起因性失神と称し,いずれも神経反射による失神である.
B.最初の処置
1バイタルサインと簡単な病歴聴取
一過性意識障害があったこと,その原因が失神か否かを判断する.意識を失ったかと聞いても患者にはわからないことが多く,誤診の原因となる.意識が一瞬でも途切れたか否か,ハッと気がついた感じがあったかを聞くとよい.
212誘導心電図
心原性失神を疑う心電図所見を表1図に示す.不整脈,急性心筋梗塞,QT延長,