診療支援
治療

大動脈瘤
aortic aneurysm
下川智樹
(帝京大学主任教授・心臓血管外科学)

A.疾患・病態の概要

●大動脈瘤は「大動脈壁一部の全周,または局所が拡張した状態」とする.大動脈の正常径としては,一般に胸部で3cm,腹部で2cmとされており,壁の一部が局所的に拡張する場合(嚢状大動脈瘤),または直径が正常径の1.5倍(胸部で4.5cm,腹部で3cm)を越えた(紡錘状大動脈瘤)場合に「瘤」と称している.

●大動脈瘤は①存在部位,②瘤の形,③瘤壁の形態,④瘤の原因により分類されている(表1).真性瘤は病理組織学的にその壁に本来の大動脈壁の構造(内膜,中膜,外膜)が残っているものである(特に中膜の弾性線維が残っている).仮性大動脈瘤は大動脈壁が破綻したために血管外にできた血腫による瘤状構造物であり,血腫を被覆する線維性構造物に中膜の弾性線維は認められない.

●大動脈瘤による症候は,①解離発症や瘤破裂によって生じる「疼痛」,②瘤が周囲臓器へ及ぼす「圧迫症状(胸部:嗄声,嚥下障害,顔面浮腫,腹部:腹部膨満など)」,③分枝血管の循環障害による「臓器虚血症状」に分けられる.

●基本的には無症状であり,胸部X線写真や腹部エコー検査で偶然発見されることが多い.腹部大動脈瘤では臍付近で拍動性の腫瘤を触知できる場合がある.持続する腹痛や腰痛を訴える場合には,切迫破裂を疑う必要がある.胸部大動脈瘤では胸背部圧迫感,呼吸障害,嗄声,嚥下障害,咳嗽,血痰などの症状を呈することがある.切迫破裂時には胸背部の激烈な疼痛をきたす.CT,超音波検査,MRI,大動脈造影で診断できる.

●「急性大動脈症候群」とは,胸痛を主訴として急性に発症する大動脈疾患群と定義され,大動脈解離や大動脈瘤の切迫破裂,intramural hematoma(IMH),penetrating atherosclerotic ulcer(PAU)などが含まれる(図1).この概念は大動脈疾患を急性疾患または慢性疾患として分け

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