A.疾患・病態の概要
1発症機序
●胃・十二指腸潰瘍は,昔から「No acid No ulcer」(酸のないところに潰瘍はできない),といわれていた.胃酸が発症に必須で,かつ中心的役割を果たしており,胃酸による消化作用によって潰瘍が形成されると考えられていたことから,消化性潰瘍(peptic ulcer)といわれてきた.しかし,Helicobacter pylori(H.pylori)の発見によって,消化性潰瘍の発症に中心的役割を果たしているのはH.pyloriであって,必ずしも胃酸ではないことが明らかになってきた.
●現時点では,十二指腸潰瘍においては,H.pyloriによって幽門部胃炎が生じ,その結果,幽門部粘膜のガストリン産生細胞が刺激されて高ガストリン血症になり胃酸分泌が亢進,さらにH.pyloriが十二指腸球部の胃上皮化生部に生着し十二指腸の酸分泌抑制機構を障害する,この2つの機序によって潰瘍が発生すると考えられている.
●胃潰瘍では,H.pylori感染は胃体部に広がって胃粘膜の萎縮が進展し,胃粘膜防御機構が傷害されている.弱くなった胃粘膜にとっては,少量の胃酸でも十分な攻撃因子となり,潰瘍が発生する.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やストレスによって胃粘膜が傷害された場合でも,同様に少量の胃酸でも潰瘍が発生する.したがって,いかなる原因で発症した消化性潰瘍でも,治療の基本は胃酸分泌の抑制である.
2原因による分類
1H.pylori感染 いわゆる消化性潰瘍といわれるものである.慢性の胃・十二指腸潰瘍の形をとることが多い.
2NSAIDsの内服 NSAIDsの長期投与に伴う潰瘍は,幽門部から前庭部に多発する比較的小さな潰瘍,前庭部の深掘れ潰瘍,不整形の巨大潰瘍などが特徴といわれている.NSAIDsの胃粘膜のプロスタグランジン抑制による胃粘膜障害が基本的な病態である.
3胃
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