A.疾患・病態の概要
急性腸炎は急性感染性腸炎や急性薬剤性腸炎など,腸管に炎症を引き起こす疾患群であり,主な症状は下痢,嘔吐,腹痛,血便,発熱である.
1急性感染性腸炎
①細菌やウイルスの経口感染による.細菌としては,カンピロバクター,サルモネラ,腸炎ビブリオ,病原性大腸菌,ブドウ球菌などがある.ウイルスとしては,ノロウイルス,ロタウイルスが多い.ノロウイルスは貝類の摂取との関連が指摘されている.夏期には細菌性腸炎,冬期にはウイルス性腸炎が多い.
②感染性腸炎の診断においては,問診が重要である.ウイルス性腸炎では,同様の症状を持つ患者との接触の有無や,施設での集団発症などが参考になる.食事摂取と症状の発症との関連は重要であり,鶏卵摂取やペット(カメなど)との接触後の発症ではサルモネラが,魚介類では腸炎ビブリオが,生肉・鶏肉ではカンピロバクターがその原因としてそれぞれ疑われる.
③ブドウ球菌の感染症では,潜伏期間が3時間ほどで,早期に発症する.組織侵入性の細菌では,12時間から数日間の潜伏期間があり,びらんや潰瘍形成による血便が症状となる.潜伏期後の頻回の水様便,激しい腹痛,血便がある時には,O-157のような腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)による出血性大腸炎を疑う.
2急性薬剤性腸炎
①薬剤により腸粘膜が傷害され,下痢,腹痛,血便などの症状を呈する疾患群.偽膜性腸炎,急性出血性大腸炎,などがある.偽膜性腸炎は,抗菌薬などの使用によって大腸の細菌群が変化を起こして嫌気性菌であるClostridium difficileが増殖して,大腸粘膜に偽膜を作る大腸炎である.高齢者や慢性疾患患者など全身状態不良の患者に起こりやすい.原因となる薬剤として抗菌薬(ペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系,リンコマイシン系,リファンピシン,
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